#book 太宰治『お伽草紙』


太宰治の中期作品で、昔話をモチーフに独自解釈と(かなりブラックな)ウィットを加えた『お伽草紙』。この作品、かなり好き。mixiコミュなど見ると、そういう人、意外に多いみたいです。

モチーフになっているのは「瘤取り(こぶとりじいさん)」「浦島さん(浦島太郎)」「カチカチ山」「舌切雀」の4話。「桃太郎」を含め5話にしようと思ったが、日本一の桃太郎を自分の手で貶めてしまうのは忍びないという理由で、4話になったことが「舌切雀」の冒頭に書かれています。

それぞれの解釈は独特。「瘤取り」。鬼にこぶをくっつけられてしまうおじいさんは、通常、金銭に欲のくらんだ卑しいおじいさんという設定ですが、「御伽草紙」では緊張して舞を巧く踊れず、鬼たちからも勘違いでこぶをくっつけられてしまう。あー、世の中は巧く行かないものだという解釈になっています。

「浦島さん」も箱から立ち上る白煙で、一気に年をとってしまい、あーがっかり、というのが普通の見方ですが、時間を進め、忘却を進めることが浦島さんにとって、実は幸せなことだったとしています。

さらに「カチカチ山」の兎には処女性とその裏側の酷薄さを、狸には中年男子の愚鈍さを象徴させ、いたずらな狸をこらしめるおばあさん思いの兎という単純な話を、男女関係という永遠のテーマに昇華させています。
狸が兎にいう
狸「惚れたが悪いか」
狸を湖に沈めた後で、兎がさっぱりとした顔でいう
兎「おお、ひどい汗」
このラストシーンの対比は、怖くもあり、愚かしくもあり、哀しくもあり、です。

新潮文庫『お伽草紙』で他に収録されていたのは、盲人にしての琴の名手、葛原勾当の日記をもとにした「盲人独笑」。これは現代でいえばTwitter。勾当の毎日の些事や喜怒哀楽を、時系列に、そして短いセンテンスで綴っているだけ。なのに、なぜか読み辞めることができない不思議な作品。そして、清代の怪奇小説 聊斎志異をもとにした「清貧譚」「竹青」。井原西鶴の西鶴諸国ばなしをもとにした「新釈諸国噺」。

「人間失格」「斜陽」などの後期作品ももちろんいいですが、これら中期作品は、もっとおすすめです!




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