#book 井伏鱒二『太宰治』


ちょっとややこしいのですが、井伏鱒二が太宰治との交友について書いたエッセイ。太宰研究資料としても貴重な一冊。

言うまでもないですが、井伏鱒二は太宰治の友であり、師であり、石原美智子との間をとりもった恩人でもあります。この本の第一版は1990年。井伏の存命が1898年~1993年なので、本自体は、そんなに古いものでもありません。

太宰は、世に知られた様々なトラブル(たとえば4回の自殺未遂と、実際に完遂してしまった桜上水での自殺)の張本人ですが、井伏の目からみた太宰は、書くことに対して純真で誠実だったようです。例えば、太宰から井伏にあてた手紙には

「小説書きたくて、うずうずしていながら註文ない、およそ信じられぬ現実。」

「いのち惜しからねども、私、いい作家だったのになあ、と思います。今年十一月までの命、いい腕、けさも、つくづくわが手を見つめました。」

というのがあるそうです。太宰らしくナルシスティックで、薬ほしさに原稿を書いたパビナール中毒時の手紙といった特殊な事情もありますが、太宰はきっと書くことで自分の生をつなぎ、自分の我を保っていようとしていたのでしょう。また、中毒状態でなく安定した中期以降も、非常に勤勉で、書くことに対しては労を惜しまない様子が井伏の回想からうかがい知れます。

何となく天才肌で、その分、生活が破綻していたという印象を持つ太宰ですが、書くことに対する純真さや誠実さ、石原美智子との家庭人としての時間といった太宰の陽の面は、「人間失格」「斜陽」に見られる陰の面以上に、興味深かったりします。




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